TULIP ROSE
by MASAHITO KANAI
シェフ・パティシエ 金井 理仁

金井 理仁

僕がパティシエを目指すようになったきっかけはちょっと変わっています。
最初のきっかけは祖父でした。
大きな市場を営んでいた彼は子供心にも
「かっこいい人」。
その背中を追いかけ大学では経営学部に進学しました。
起業の道を目指したのですが、そこで思いがけない出会いが訪れました。
店舗経営のノウハウを学びたいという動機でアルバイトに訪れた菓子店で、
フランス菓子の世界に出会いすっかり虜になってしまったんです。
「なんだこの世界は。なんて面白いんだろう!」と。
もっと知りたいもっと作りたい。思いがふくらんで卒業を待てず、
とうとう学業と平行して「東京製菓学校」に通いはじめました。
自分の夢はパティシエだと、ゴールが定まった瞬間です。

2013年ひとりフランス・パリへ渡りました。
もちろんフランス語なんて一言も話せない。
ずいぶん無謀だけれどとにかく情熱が勝っていました。
辞書を片手にへたくそなフランス語で師匠や先輩を質問攻めにする毎日。
僕の名前カナイって、フランス語ではやんちゃ坊主の意味なんです。
「カナイ、カナイ」とからかわれながらも、パティシエとして
大切な事をたくさん教えてもらいました。
当時の住まいはちょうど広場に面していました。
毎朝マルシェが立つんです。
数えきれないほどのチーズや
新鮮な山盛りのフルーツ、とにかく素材だらけ。
朝一番に買ったバラの花で香りづけに
チャレンジしたり、
まるで実験を楽しむようにワクワクしながら味作りに没頭しました。
シェフパティシエを務めたレストランは、
パリコレの時期になると
ファッション関係者で満席になる店。彼らの多くはヴィーガンで、
お菓子自体なかなか興味をもってくれない。
それがどうにも悔しくて悔しくて。
ヴィーガンに美味しく楽しんでもらえるケーキシリーズを頭を悩ませながら開発し、
それがついに人気メニューになった時は本当に嬉しかった。

帰国後2019年に立ち上げた『TOKYOチューリップローズ』は、
今では僕の代表作となった『TULIP ROSE』の誕生から始まりました。
実は僕の出身地はチューリップの名所。
幼い頃から親しんできた
この可愛い花の中に
大人っぽい華やかなバラを咲かせたら、
みんなに愛される“世界のどこにもない花”が作れるんじゃないか。
そうひらめいてクリームを絞ったのがスタートでした。
僕は、新しいお菓子を作る時いつも「みんなに」という事を大切に思っています。
100人いたら100人の人に美味しいと言われたい。
特別なハーブを隠し味に使ったり焼き具合に変化を
つけてみたり。
一品ごとに独特の工夫は凝らすのですが、フィニッシュは必ず
「大人も子供もみんなが大好きな味」に着地させたいのです。
作る満足だけではなく、
食べた人がうれしいと喜ぶ顔を見るところまでが
僕の目標。
これからも新しいお菓子に取り組むたび、
同じ気持ちで向き合っていきたいと思っています。

僕の代表作「TULIP ROSE」は、
チューリップの中にローズが咲く世界にここだけの花。

誕生の原動力は、パリの人々と
師匠が教えてくれたある真理でした。

「最高に美しいカタチは、味も最高においしい」。
新作に没頭するたび、
いつもその思いがあふれてきます。金井 理仁

MASAHITO KANAI 金井 理仁

  • 1986年生まれ。
  • 専修大学経営学部在学中に東京製菓学校にてお菓子作りを学ぶ。
  • ハイアットリージェンシー東京にて皿盛りのデセールやプチガトーはもちろん、ショコラやウェディングの華やかな細工菓子まで、パティシエとしてあらゆる洋菓子の技術を磨いた。
  • 2013年に渡仏。パリにて、シェフ・パティシエをつとめる。
  • 2017年に帰国後、集大成としてTOKYO チューリップローズを手がける。
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